前回は、よしながふみの「大奥」の1巻だけを読んで感想を書いたんですが、せっかくなので、持ってた10巻までを読みかえして、そしたら続きが気になったので最新14巻まで買ってきて、ざっと読んでみました。で、新しい部分については、おもしろかったところもありましたけど、全体的な感想としては、前回書いたことから変更ありません。

前回の話をまとめると、社会を維持するには、経済活動(食べ物を作ること)と、人口の再生産(子供を産むこと)の両方にリソースを配分して、バランスさせないといけない。で、人口の再生産については、決定的に女の数が重要で、男は必要最低限いればいいだけ。余剰分の男が死んでも特に影響はないし、逆に男がたくさんいても、なんの役にも立たない。よしながさんの「大奥」の世界がおかしいのは、人口の再生産のためにたくさんの男を集めているところ。(以上まとめ)

男の数が重要なのは、人口の再生産においてではなく、経済活動においてです。男は子供を産めないから、自分のエネルギーを100%経済活動に振りむけているわけで、だから女が、死んだ男の穴を埋めるために、男と同じように働かなければならないとしたら、子供を産む人がいなくなってしまいます。というわけで、女が男の穴を埋めるためには、人口の再生産と経済活動とのバランスを考えて、うまいことリソース配分しないといけないよね、というような話を、今回はしようかと思います。

もちろん、よしながさんはSFじゃなくて少女漫画として書いてるわけで、みなさんもそういうふうに読んでるというのはわかってますので、別に「大奥」について文句をつけてるわけではありません。ただ、設定がSF的におもしろかったので、いろいろ考えさせられたというだけのことです。


さて、前回は、自分の子を作る際に、男子は女子をめぐって他の男子と必ず競合するけど、女子は男子をめぐって他の女子と競合しないから、男の将軍が大奥を持つのは合理的だけど、女の将軍が大奥を持つのは合理的じゃないよねというお話をしましたけど、何度もことわりをいれたように、女子が他の女子と競合しないというのは、生殖の相手としての男子をめぐって他の女子と競合しないという意味で、子供に投資するコスト分配に関していえば、当然ながら他の女子と競合します。(腹違いの子供が他にいる場合、父親のもつコストを他の母親と奪い合うことになります。)

つまり、男将軍の大奥にいる多数の妻は、それぞれの子を介して後継者争いをせざるをえないということですけど、こうした競争は、女将軍の大奥にいる多数の夫同士の間でも発生しうる事態ですから、特に女子だけが競合するわけではなく、要するに、男女に関係なく、共通の目的をもった人間同士は、限られた資源をめぐって競合するよねというだけのことです。(ただし、「大奥」の世界では、女将軍が一度の排卵期間中に複数の夫といたしているようなので、子の父親がだれであるかについては、かなりいい加減に考えているようです。桂昌院なんかは、父親として権力を持ってるように描かれていましたが、その他の父親は影が薄かったし。通い婚の場合によくあるように、妊娠してから、女が可能性のある男の中から好ましい男を父親に指名するという形態をとっているようです。吉宗の場合などを見ると。とはいえ、そういう父親の指名は、経済的な面倒をみさせるためのものなので、やっぱり女将軍が産む子の父親は誰でも構わない、とにかく全員正室の子、としておけば十分だと思います。)

というわけで今回は、経済的側面も考慮に入れて、赤面疱瘡が蔓延してる社会を、女が中心になって運営していくには、どうしたらいいかって話をします。

●まず、14巻まで読んでのざっくりした感想から。

家光(二代目)の場合、最初は、赤面疱瘡で死んでしまった父家光(初代)の影武者みたいな扱いで、実際の影武者は稲葉正勝が務めてましたけど、公式には父家光がまだ生きていることになっていたから、人前にも出ず、政務も取らず、大奥の中で父家光の代わりに世継ぎを産むことだけが役割でした。
で、父家光がまだ生きているのだと偽装するために、男将軍(初代家光)のための大奥をそのまま残して、書類上は大奥にいる男たちを女だということにして、むりやり運用していたということのようです。多分に春日局の趣味&独断のようでしたけど。いくら春日局が権力を持ってたからといって、幕府の根幹にかかわるようなことを、ぜんぶ春日局が独断できめちゃったって、そんなんでいいの?とは思いますが。

たとえば、将軍(女)とお中臈(男)の間に子供ができると、「お腹様」とか「お部屋様」とか呼ばれるようになるわけですが、言葉の意味からいえば、お部屋様はともかく、「お腹様」はないだろ、「お種さま」だろと思うわけですけど、公式には大奥にいるのは女ということになってるらしいので、「お腹さま」とか言ってるようなんですね。あと、お褥すべりとか、男の側室は三十五でお褥すべりで、女の将軍は閉経しても男を抱くんだか抱かれるんだかということになっていて、もちろん、上様がなさりたいのならなさってくださってかまわないのですけど、子供を作るという意味では、まったく無意味なことをやっているわけです。

こういうのは、将軍が男だと偽装するためというなら、かなり苦しいですけど、いちおう説明にはなりますが、娘家光(二代目)自身、春日局が死んだ後には、実は女将軍だったんだよとカミングアウトしているわけで、そうなると、大奥にいるのは公式には女なのだとかいっても、誰に対して偽装しているんだかよくわかんないことになってるんですけど、吉宗が読んでた秘伝の文書によると、諸外国に男がいないのがばれたらやばいから偽装してるんだとかなんとか、かなりうそくさい理由で、女が男名を使ったり、男が女名を使ったりしているようでした。(外国に攻められる云々の話をすると、若い男が必ず死ぬなんていうおっかない伝染病が蔓延してる国なんて、どこも攻め込んでこないだろうから、むしろオープンにした方が安全だと思いますけどね。あと、強毒性の赤面疱瘡を人工的にばらまけるようになったとしたら、最強B兵器として、世界征服も夢じゃないと思います。)
で、理由はともかく、男将軍のために作られたシステムである大奥を、合理性を無視してそのまま男女逆転して使ってるだけというような感じで、結局、きれいな男をたくさん集めて眺めていたいという趣味の問題なのか?と思ってしまいます。ま、妄想なら妄想でいいんですけど。趣味だけのために、あんまり無駄遣いすんなよとは思いますけど。

さて、女将軍が大奥を持つ意味が全然分かんないと、前回さんざん書いてたわけですが、2巻~14巻を読んで、ますますそう思いましたけど、その理由は、多数の男を独占的に囲うことが合理的じゃないというだけではなくて、そもそも、将軍本人が何人も子供を産まなくてはいけないというのが積極的に非合理だと思ったからです

前回、女と男とでは、妊娠・出産・授乳にかかるコストが桁違いだという話をしましたが、社会的な活動の中心が男から女に移った場合、それまで男がやっていたような社会的活動をもするようになった女性が、妊娠・出産もしなければならないとすると、コストが莫大になりすぎるんじゃないの?ってことですね。

●赤面疱瘡による労働力減少の効果

男女の人口比が最大で1:5になったということは、それまで男の4/5がやっていた仕事を、女が代わってやらなければならないということです。つまり、人口の40%が減って、労働力(男)が極端に不足してしまった社会で、経済力を落とさずに、なおかつ人口を維持するにはどうしたらいいか?というのが問題になっているわけです。

経済力を維持するためには、それまで男がやっていた分の労働を女がやらなければなりません。これは作中では、女が全部やることになったと言われているから、なんとかできたのだと思われます。イノベーションがあって、労働効率が上がったというような話も書かれていましたし、少なくとも、人口が減った分(40%)程度の経済規模の縮小で済んでいるのだと思います。

けれど問題なのは、人口を維持するための妊娠・出産・授乳も、当然ながら引き続き女がやらなければならないということで、その点の説明がほとんどなかったので、実際にそんなことができるのかな?とわたしは大いに疑問でした。(わずかに、近所のおばあさんに子供を預けて、農作業に行くとかいうのがあっただけ。)

今までと同じやり方だったなら、経済力と人口を同じ水準で維持することは不可能です。もっとも、それまでの社会において、いかなる意味においても働いていない人(ほんとうになんにもしてない人)が40%近くいたというのなら、可能でしょうけど。そんなに余剰労働力があったわけないし。

赤面疱瘡以前には、男女がそれぞれ100の労働力を持っていたとすると、合計200の労働力で、経済活動と人口の再生産を行ってきたことになります。人口の8割以上を占める農家の場合、女の労働力も重要ですから、ざっくりいって、男の労働力100と女の労働力50が経済活動に使われて、残りの女の労働力50が人口の再生産と家庭内労働に使われたとしておきましょう。(配分の割合は、もちろん適当です。)

赤面疱瘡が流行して、男の8割が死んだ場合、男の労働力は100から20まで落ち込みます。しかも作中では、「男は大切だから労働なんかさせられない」とかいうわけのわかんない理由で、男は経済活動にまったく参与しなくなるし、家庭内労働はもとよりやっていないし、結果、子作りしかしなくなるのだと説明されています。というわけで、男の残存労働力20は、子作りに使われるだけで、経済活動や子育てや家事に使われることはないそうです。

つまり、経済活動ならびに妊娠・出産・子育て・家事のために、社会全体で使えるリソースが、女の労働力100だけになってしまうわけで、普通に考えて、以前と同じシステムのままだとしたら、労働力が200から100に減るわけだから、社会の規模を半分以下にしないと維持できないのは当たり前です。(仮に、赤面疱瘡以前の規模のままで、今まで男女でやっていた経済活動をぜんぶ女がやるようになり、さらに、今まで女が中心になってやっていた家事や出産や育児を、ひきつづきぜんぶ女がやることができるのだとすると、男がいた時代の女は、提供できる最大労働力の半分程度しか提供していなかったということになりますが、まさかそういうわけのことではないだろうと思います。)

実際のところは、経済規模の縮小は、半分にとどまらないはずです。どうしてかというと、社会規模が縮小したにもかかわらず、人口の再生産にかかるコストは同じだけ支払わなければならないからです。
赤面疱瘡は若い男の死亡率を上昇させます。つまり、同じ数産んだとしても、生き残る人数が少なくなるわけで、要するに、人口の再生産にかかるコストの効率を悪化させるということです。ですから、上の例でいえば、人口で4割ほど縮小してしまった社会規模を維持するだけのために、以前と同じだけの労力、すなわち女の労働力の半数にあたる50は、かならず支払われなければならないということです。
となると、社会全体で経済活動のために使えるコストは50しか残りませんので、経済規模の縮小は、赤面疱瘡以前(150)の半分ではなく、1/3になってしまうということです。(もともとのコスト配分の数字が適当なので、実際のところは、どれくらい縮小したかはわかりません。)

というわけで、人口の縮小幅よりも経済規模の縮小幅の方が大きいと思われるので、生き残った人口が維持できるだけの経済規模が残されているのかどうか、なにも対策をしていないのだとしたら、かなり難しいだろうと思います。(人口よりも経済規模が縮小してしまっているなら、経済規模に見合った人口になるまで飢え死にする人がでて、最終的には経済規模と人口がバランスするので、ほっといてもいいっちゃいいんですけど。)

●経済効果以外の労働力へのリソース配分

「大奥」の世界で、赤面疱瘡によって、どの程度の社会規模の縮小があったのかはわかりません。赤面疱瘡が流行り出したのは1630年代だと思いますが、当時の推定人口は1700万~2000万くらいなので、仮に2000万だったとすると、男が800万ほど死んで、計1200万くらいまで人口が減ったのかとも思いますが、どうなんでしょう?

当時は農業が経済の中心ですから、社会規模が半分近くまで落ち、経済規模はそれ以上に縮小したとすると、せっかく開墾した農地の半分以上が荒れてしまったということになり、もったいない話ですけど、ある程度の規模の縮小は仕方がありません。
問題は、経済活動もすべて女がやるとした場合、経済活動と非経済活動へのリソース配分をどうするのか?です。ちょっと気になったので、いくつか考えてみました。

●男性ロールと女性ロールにわける

女が二人一組になって、片方は従来の男の役、片方は従来の女の役をこなす。つまり、片方の女は、妊娠・出産・家事等はせず、すべての労力を経済活動に使う。もう片方の女は、経済活動をしつつ、妊娠・出産・育児・家事等にもリソースを振り分ける。というように、男女両方のジェンダーを女性が分業してこなすというシステム。

社会の規模を半分にして、従来男が果たしていた役割を、半数の女が引き受けるわけですね。で、二人組になる女性は、同腹の姉妹、できたら同腹同父の姉妹がいいですね。(完全姉妹の姪・甥の場合、25%血がつながっています。)

家族の基本単位は、母と母の姉妹、子供は姉と妹で最低4人で1ユニットになります。多くの場合、3~4世代の同居となるでしょう。50代の祖母世代、30代の母世代、10代の子世代という感じ。この場合、6~7人の女(終日労働する人が3人、育児中の母親が1人~2人、母親たちのサポートが1人)と、1~2人の男という家族構成になるでしょう。もっとも、男については、男がいる世帯といない世帯で労働力に差が出てしまって不公平なので、詳しくは後で書きますが、すべての男を行政が管理するのがよいと思います。

女の子が成人になるまで生き残る率が6割、男の子が成人に達する率が2割とすると、女の子を4人産むと2人以上成人するのが期待できます。男子は8割が死ぬので、4人女子を産むまでに4人の男子を産んだとしても、一家の一世代にいる男子の数は0.8です。2.5年おきに8人産むとすると20年かかる。18才から産み始めると38才まで。

というわけで、農家の場合、男役は10代半ばから50代まで働く。女役は、10代半ばから農作業をしつつ、18から40までの間に5人~8人の子を産んで育てて家事もやって、50代で隠居する。という感じでしょうか。家長は、男役をこなす母の姉妹で。

こんな感じだと、人口は増えないですけど、キープはできるかと思います。

●総シングルマザーモデル

男性ロールと女性ロールにわける場合、男性役の女性は子供を産めません。また、女性役の女性は、20年間で8人もの子供を産まねばならず、これはかなりの負担です。(とはいえ、男がいる時代でも、これくらいの負担は負っていたんだろうとは思いますが。)
男女半々で構成される社会の場合、男性には妊娠する能力がありませんから、子供を産むのは女性の役割にならざるをえません。けれど、男性ロールの女性には、実際には子供を産む能力があるわけですから、すべての女性が子を産みつつ経済活動も行うというやりかたも可能です。

この場合、社会全体で負担しなければならない人口の再生産にかかるコストを、男女半々の社会の場合は全体の50%の人が負担していたわけですが、赤面疱瘡以後の世界では、全体の80%の人が負担することが可能になるわけですので、一人当たりの負担は減ることになります。
つまり、男女半々社会をまねた男性ロール・女性ロールによる分業の場合、女性役の人は8人産まなければならなかったのが、女性全員が産むことにした場合は4人産めばよいわけで、人口再生産にかけるコストの負担が半分ですむわけです。

女子の全員が産むというモデルの場合、基本的には三世代で1ユニットになると思います。祖母世代、母世代、子世代ですね。最短18歳間隔で産んでいけば、いちばん上が54歳の時に四世代目が誕生します。20歳間隔なら60歳の時、25歳間隔だと75歳の時になってしまうので、できれば、20代前半で産んでくれると助かります。

子供を産む期間は、17才から26才までの10年間にして、その間は、祖母世代が労働の中心になって、母世代は出産・授乳・労働の手伝いをします。子供を4人(女子2人男子2人)産んで、平均で女の子1名の生き残りを目指します。
20代前半で子供を産んで、20代後半から労働の中心は母親世代に移ります。で、そのころ40代後半以上になった祖母世代は、家事と育児をします。という感じ。
つまり、17歳までは家事&労働の手伝い、17歳~26歳までは出産と労働のサポート、27歳~45歳までが労働の中心で、45歳以降が家事と育児という感じです。で、60ちょいで隠居。

基本的には祖母―母―娘―孫という直系家族が単位になりますが、同世代一人づつだとなにかと不便ですし、一つのユニットが3~4人では少ないので、親戚など3家族くらいが一緒になって、10人前後で一緒に暮らすのがよいのじゃないかと思います。

3家族4世代10~12人が1ユニットの場合、50~60代の主婦が3人、30~40代の労働世代が3人、20代の出産世代が2人、10代が1人、子供3人程度というような感じでしょうか。

●3家族で40年間まわしてみました。

最初の年。

白は働かない人、緑が労働の中心、黄色が家事&育児、赤が母親世代です。
黄色が3人いますが、元気なら交代で緑を手伝ったらよいと思います。(60代で死んじゃうということもわりあいあるかと思います。)また、子供は白になっていますが、10歳以上の子供は、もちろんいろいろ手伝いをやらされます。

8年後

16年後

24年後

32年後

40年後

どうでしょう。なんとかうまく回っていくような気がします。

さて、4人ほど出産したとして、例えば、生まれたのが全部女の子で、みんな死なずに育った場合など、ユニット内で人手が足りないようだったら融通したらいいですけど、子供が多すぎるとなった場合は、養子に出すか、分家させるかしないといけませんが、おそらく最初に赤面疱瘡が流行した段階で、全国の農地の4割ほどは荒地に戻ってしまっているでしょうから、たぶん土地自体は余っています。というわけで、子供が余った場合は、どんどん分家させて開墾したらいいと思います。
もちろん、標準よりたくさん子供ができた家には、子育て支援の手当てをしないといけません。

武家の場合でも、部屋住みの時期に出産しておいて、家督を継ぐのを30代にすれば、例えば役職についてから出産のために長期休暇を取らざるをえないというようなことがなくなってよろしいかと思います。また、家督を継いだ時点で、既に子供がいるわけですから、その点からいっても安心です。

問題は職人で、職人は若いうちから修業しないといけないわけで、職業訓練時期に妊娠・出産をするのは実際のところ無理だと思います。というわけで、職人の場合は、自分で子供を産むのをあきらめて養子をとるとか、男女ロールモデルでやるとか、そういう感じにならざるをえないかもしれません。
男を職人に使うというのもありですが、やっぱり男には力仕事をさせたいです。大工とか石工とか、力仕事の職人だったら、男にやらせるのでもいいかもしれません。

●男の労働力の使い方

以上、ほぼすべての経済活動を女性が担いつつ、妊娠・出産・家事などの労力もこなすには、どのようにリソースを配分したらよいかという話でした。

「大奥」では、男をまったく働かせないという設定になっていますが、これは大変非合理で、ありえない設定だと思います。男子が少ないといっても全人口の2割もいるわけですから、経済規模の減少をなるたけ抑えるためには、男も働かせるべきというか、絶対働かせなきゃダメです。しかも男の場合、全労働力を経済活動だけに投入できますから、男については、働かせたら働かせた分だけ、経済活動の規模を大きくすることができます。

先の例でいえば、女100+男20で合計120の労働力を抱えた社会を維持するために、女の労働力のうち50が人口の再生産に使われ、残り50が経済活動に使われるわけですが、そこに男の労働力の20が追加されると、経済活動に70の労働力を使うことができるわけで、40%もの労働力アップになります。
というわけで、男を働かせない理由がわかりません。てゆうか、男を働かせなかったら、労働力不足で社会がまわっていかないと思います(男が働いたとしても、かなりうまくやらないと労働力が足りなくなると思います)。赤面疱瘡になるリスクが怖いというなら、20すぎまで働かせないでもいいですが、それ以降は力仕事中心に、どんどん働かせるべきだと思います。

また、人口の20%を占める男が、結束してその気になったら、いろいろと面倒なことがおこりそうですので、男をひまにしておくのは得策とは思えません。作中でも、由井正雪の乱とか、赤穂浪士とか、大塩平八郎の乱とか、そういうのは全部男がやったことになってましたし。

江戸時代の職業構成では、武士が1割弱、商工業が1割、農業8割、その他ちょっと、というような感じだったかと思います。つまり、すべての男が結集したら、史実における武士以上の武力を持ちうるわけです。というわけで、男の労働力は、幕府や藩が直接管理して使うのがいいと思います。労働力としてなるべく効率よく使いつつ、権力は持たせないようにするのが肝心です。(そうしないと、すべての男が四人の妻を持ち、妻のうち二人を働かせて、二人には子を産ませて、自分は武士だから管理職、みたいな感じで、男が女のリソース分配を好きなようにきめる社会になりかねません。女に水くみさせて、自分は女を「守るため」に手ぶらでついていくとか、そういう社会は今でも実際に存在します。)

あまり小さいうちに男の子を一か所に集めると、赤面疱瘡が流行った時に全滅しかねないし、情操教育上よろしくないでしょうから、成人するまでは各家庭で育てるのがいいでしょう。家事手伝いでもさせながら。で、成人したら行政が全員を召し上げて、適性を調べて、さまざまな仕事に振り分けます。(男の子の養育は、労働力の見返りが家族単位では期待できませんので、行政から養育費が出るようにすべきでしょう。)

農地開墾とか土木関係で必要でしょうから、各農村に男を数名配置して庄屋の支配下におきます(男組)。イメージとしては、村の共同所有のコンバインとかトラクターみたいな扱いです。男組には割り当ての農地はなく、適宜必要な場所に行かせて働かせます。生活費は村でもって、若者組の宿みたいな感じで集団生活をさせます。村の警備にもなりますし、火事などの時も便利です。子種が欲しい時は、男宿に申し込むと通ってきてくれます。もちろん無料です。
簡単な鍛冶仕事、屋根の葺き替えとか家の建て替え、雪囲い、水路関係、入会地の管理(実務)などは、男組を中心にやらせます。
あんまり地域に土着しないように、また、DNAの多様性のためにも、男たちは、5~6年ごとに転勤させた方がいいと思います。基本的に父子関係はなくてよいでしょう。認知等もしないでいいと思います。(男は社会の共有財産という認識です。)

専門職としては、鍛冶屋。製鉄関係。石工。運送業や海運業。林業とか木場の仕事。港湾労働者とか。鳶とか大工とか。
男にやらせる専門的な仕事は、国営事業にして、公務員的に男を雇用して使ったらいいと思います。

男は家庭を持てませんし、家庭にも入れないので、土地や財産の所有権がありません。働けなくなったら老人ホームに入れます。(重要なのは、家と男を切り離すことだと思います。)
ま、だいぶディストピアな感じになっちゃいますけど、人口の4割が減って、男子の生存率が2割って社会で、経済規模の縮小をなるだけ小さくするためには、これくらいはやらないとしょうがないんじゃないかと思います。

●軍事・警察関係

問題なのは軍事・警察関係で、これらは男を雇うのが合理的なセクションでしょうけど、男に武力を持たせるとクーデターとかしかねないので微妙なところです。
そういえば、そもそも参勤交代とか天下普請(城の場合)なんかは、幕府が諸大名に無駄遣いをさせるためにやっていたことですから、参勤交代なんかは、赤面疱瘡で労働力が大幅に減った際に、真っ先に廃止すべきでしたね。

で、大名は基本的に在府、国元は嫡子が治める。移動するにしても、大名行列なんかする必要なくて、大名が家来数名連れて移動すればすむ話です。
各藩における軍備の縮小とは、具体的には侍の数(家の数)を減らすことです。行政組織としてだけ機能すればよいので、武力としては警察程度を残して、あとは大幅にリストラします。で、解雇した人員は、縮小した経済規模を補うため、帰農させるか商売を始めさせたらいいでしょう。

幕府の武力も、諸藩の武力が少なくなったら、そんなにたくさんなくてもいいわけですので、江戸を制圧できるだけの武力があれば足りるかと思います。大名はみな江戸にいるわけだし。対外的には、赤面疱瘡の脅威を大げさに宣伝しておけば、攻め込まれることはないでしょう。
というわけで、役のない御家人等は、解雇して生業に就かせます。

武士のリストラと無駄の廃止(参勤交代とか築城とか)で、どれくらいの労働力が経済活動に回せるようになるかわかりませんが、武士は全人口の一割もいなかったので、赤面疱瘡によって死んだ男たちの労働力を補うのには、まだまだ足りないと思います。

とはいえ、人口が40%も減ってしまったのだから、徹底した合理化をはかって経済規模をなるべく縮小させないようにしなければいけないと思います。
「大奥」に出てくる将軍たちは、あんまり政治には興味がなかったようですが。せっかく将軍になったのなら、なんか考えてやってみないとだめだろうと思います。吉宗は将軍の中ではやる気のある方でしたが、史実の吉宗がやったこと以外にはやってないので、いまいちでした。史実の吉宗がやったことしかやらないなら、当然ながら赤面疱瘡っていう、史実と違う状況に対処した政策はやらないってことですよね。

●将軍家のこと。

あと、なんだかんだ言って、やっぱり将軍家の相続については、男に子供をつくらせた方がよいと思います。社会の主体が女性になるわけですから、女将軍をたてるのはよいと思いますが、直系相続にこだわる必要はないと思います。

つまり、男家光が死んでしまった後、娘家光が将軍になるのはかまわないですけど、御三家のどっかから男の子をもらってきて、彼にどんどん子作りをさせて、家斉みたいに子供を50人くらい作らせて、そこで生まれた出来のいい娘を次期将軍にすればいいわけです。で、生き残った男子の中で、体の丈夫な子を次の子作り要員にして大奥に入れる。つまり、母系制でよくある相続の反対で、将軍(女子)が、自分の兄弟の娘に相続していくという形です。

家斉の場合は、男女それぞれ25人以上の子がいたようなので、赤面疱瘡での死亡率を考慮しても、男子が5人は成人する計算になります。作中では、家斉が子を作りすぎて財政を圧迫するとかなんとかいってましたが、いくらなんでも子供が多くて国家財政が圧迫されるとかいうのはおかしな話で、政権を安定させるために必要な経費なんだからどんどん産んでかまわないと思います。(実際に家斉がやったような養子政策をしたり、別家を立てたりすると費用がかかるというなら、飼い殺しにしておけばいいだけです。)

あと、将軍候補の女子には、小さい時から教育して、帝王学を叩き込んで、ちゃんと政治をする将軍にしないとだめですね。「大奥」の将軍たちはやる気がなさすぎでした。みんながみんな、将軍やりたくないっていうだけなんだもん。

●最後に。

さて、いろいろ書いてきましたが、わたしが女将軍になったらこういう風にやりたいなという話でした。

ポイントは、女中心で、経済活動をしつつ人口の再生産も可能な仕組みを作ること
それから、家制度と男を完全に切り離すことで、男に権力を持たせないこと

で、完全に女中心の社会になったとして、その後、赤面疱瘡の治療法が開発されて、男が死ななくなったとしたら、どうなるでしょうか。

まず心配しなくてはいけないことは、その段階での社会には、人口爆発(4割増)がおきても大丈夫なだけの成長余地(つまり開墾可能な土地)があるのか?ということです。史実では、1720年代(享保)から幕末まで、人口は横ばいです。飢饉のときには減り、その他の時は微増、結局は変化なし、という感じです。wiki参照。つまり、江戸時代中期以降は、当時の技術水準で可能な食糧生産量ぎりぎりの人口をキープしてたということなのでしょう。(だからちょっと不作になるとすぐ飢饉になって人が死ぬ。マルサスの人口論みたいな世界ですね。)

女中心での社会運営がうまくいって、人口と経済規模がともに拡大していったとして、本当の歴史から100年遅れの1800年ごろまでに、史実における江戸時代のリミット(3000万人)近くまで人口が増えたとします。
それ自体は喜ばしいことで、わたしが将軍だったらそんな感じを目指していろいろやっちゃいそうなんですけど、もし、そうしたなかで赤面疱瘡の治療法が発見されて、男の死亡率が女と同等になったとすると、三大飢饉なんてお話にならない規模の食糧不足に見舞われると思います。

イメージとしてはこんな感じ。1500万スタートで、世代ごとに14%づつ増加すると、10世代で3000万になります。(出生率2.85で、女子の8割、男子の2割が成人するとして計算。)
漸進的に人口が増加する分には、与える農地がなくなるという理由で、子供を作れない人が出てくるようにすれば、世代ごとの人口調整は可能だと思います。
ですが、赤面疱瘡で死ななくなるというような場合、一世代での人口増加率が大きすぎます。

男女比1:4で人口3000万だとすると、男600万の女2400万になります。(史実では男女同数で1500万づつ。実際は男の方が一割ほど多かったと思いますが。)その状態から赤面疱瘡が克服されたとすると、一世代で男が少なくとも1800万増加(死なない)して、合計4800万になってしまいます。食料が足りるわけがありません。
というわけで、赤面疱瘡がなくなったとすると、そのせいで、男女合わせて少なくとも1800万人が餓死してしまうと思われます。

男が死ななくなることは、急激な労働力の拡大をもたらしますが、社会にその労働力を使うだけの余地がないなら、その男たちはまったくの無駄っていうか、仕事はないのにご飯を食べるわけだから、単なる無駄より悪いです。

前回、人口の再生産のために、男は必要最小限いればよく、余剰分は死んでもかまわないと述べました。
それに対して、労働力としての男は、一般に、多ければ多いほどよいと思われがちですが、上のような状況だと、労働力としての男も、「使い道がないからいらない」といわれてしまうわけで、なんともかわいそうな話ですね。

人口の再生産のためには必要最低限の男がいればよくて、また、労働力としての男がそれほど必要でない社会が実現してしまったなら、実際のところ、男ってちょっとだけいればいいよねって話にならざるをえません。現に、蟻とか蜂とかはそういう社会を作ってますよね。

ディストピア物だったら、そういうわけだから、赤面疱瘡の治療法は見つけない方がいいんだよってことになって、治療法は闇に葬られてしまいそうですね。

それか、社会を安定させるために男の8割を間引くか。でもそれなら、赤面疱瘡を直さなきゃいいだけの話ですよね。(女を間引くわけにはいかない理由は前回述べました。)

もしくは、食料を巡って男たちが殺し合いを始めるか。(この場合は、人口が多すぎるのが直近の問題なので、女も殺されそうです。ただ、内戦状態になると農地が荒れるので、さらに食糧生産が少なくなって、ますます状況が悪化していきます。)

それか、余剰の男を駆って侵略戦争を始めるか。内部で殺し合いをするのとどっちがまし?ってことですけど。

なんにせよ、あんまりいい解決策はないような気がします。

あ、マイルドな解決策として、赤面疱瘡のワクチンを全員には使わずに、徐々に男の数を増やしていくようにコントロールしつつ使うというのでもいいですね。弱毒性のワクチンを接種する際、意図的に強毒性のものをまぜて殺してしまうとか。内実がばれたら、大変なことになりそうですけど。

というわけで、「大奥」の将軍たちが無策で、男がいない期間に農地が荒れて、再開発のめどが立たないというような状況は、むしろ良かったのかもしれませんね。

男が死なないようになったときに、そいつらがどんどん開墾できる余地を残しておいたという意味で。

よしながさんがそこまで考えて、あえて将軍たちを無能に設定したというのでしたらすごいと思いますが、そんなことはないでしょうか?

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