こんにちは。前回書いたのは、あまりにわかりにくかったので、もうちょっと簡単にまとめてみようと思います。

(以下、画像は「百寮訓要抄」という本からです。→百寮訓要抄上 百寮訓要抄下

  • 大輔の正しい読み方
  • まず、大輔ですが、正式にはこれは「タイフ」と読みます。
    大輔とは、八省の「おほいすけ」です。「輔」は助けるという意味なので、四部官では「すけ」に相当します。(荒木大輔はダイスケと読みますが、「すけ」は和語ですので、「ダイスケ」ではなく「オオイスケ(オホイスケ)」か「オオスケ(オホスケ)」と読むのが正しいです。「じょう」と「さかん」は元が字音読みなので、「だいじょう」「だいさかん」と読むのでかまいません。)

    「タイフ」という発音は、
    「タイフ」 → 「タイウ」 → 「タユー」
    と転呼する可能性があります。
    例えば、「言ふ」という動詞は、ハ行がワ行になって「いう」になり、さらに「ゆー」と発音されるようになりますが、それと同じですね。
    とはいえ、一般に、大輔の読みの場合は転呼しません。(下で述べるように、江戸時代の武家の間では転呼するのが正しいとされていたようですが。)
    少輔の場合は、「しょうふ」が「しょう」に転呼しているので、大輔が「たゆう」になってもよさそうなもんですが、とにかく大輔は基本的にずっと「タイフ」と読んでいたようです。

    とはいえ、どうしても大輔を「たゆう」と読みたいという方は、時代を考慮したうえでなら、そう読んでもかまわないかなと思います。つまり、書かれた時代が鎌倉時代以降であるなら、大輔を「たゆう」と読んでもまあ許されるかなと思います。

  • 少輔の正しい読み方
  • 少輔は、「しょう」と読みます。旧かなでは「しょう」もしくは「せう」もしくは「せふ」と書きます。
    少輔とは、八省の「すないすけ」「すくないすけ」です。
    少輔は本来、大輔(タイフ)の場合と同じく「ショウフ」と読んでいましたが、
    ショウフ → ショウウ → ショー
    と転呼して、「ショウ」(ショー)と発音されるようになったのだと思います。
    というわけで、少輔の読み方は、「しょう」か、「しょうふ」です。

  • 大夫の読み方
  • 大夫とは、もともとは中国における身分で、卿の下、士の上にあたります。
    日本では、五位(以上)の人を呼ぶ際に「大夫」といいます。(ちなみに、大臣を公、三位以上を卿といいます。)
    大夫は音読みで「タイフ」と読み、転呼して「タユー」となる点、「大輔」と同断ですが、もちろん、「大輔」とは音が同じだけでまったく別の言葉です。(意味が全然違います。)
    官職名で使われる場合の「大夫」は、修理職、左右京職、大膳職、東宮坊などの「かみ(長官)」です。
    大夫とは本来、「貴人」をあらわす言葉なので、四部官では「かみ」に相当するのです。
    官職としての大夫は、「大輔」との混同をさけるためか、「タイブ」と発音することになっています。これは、そういう慣習だったので、正式に読みたいならば従ってください。「たゆー」と転呼しないのは「大輔」の場合と同様です。

    一方、正式な官職名ではありませんが、本来六位相当の官職に五位の人がついている場合、大夫を付けてタユウと読むことがあります。
    八省では式部丞や民部丞太政官の「さかん」である外記と史近衛府の近衛将監衛門府の衛門尉など、特定の六位相当の官職には叙爵枠があり、毎年上位者一名が従五位下に叙せられるという慣習がありました。順爵といいます。で、五位に叙せられたのちも元の職に留まる場合(叙留)、これはたいへん名誉なことだったので、特に、式部大夫・民部大夫・大夫外記・大夫史(史大夫)・大夫将監(左近大夫・右近大夫)・大夫尉(左衛門大夫・右衛門大夫)と呼んで区別していたというわけです。(これらは実際にちゃんと仕事があるポストだったので、有能な人を確保したかったわけです。旧軍の特務士官みたいな感じかな。)

    で、五位に叙せられた式部丞などを式部大夫と書く場合、「しきぶたゆう」と読むというのですが、これは必ずそう読まなければならなかったというほどのものではなく、単に区別したいときはそう読んだという程度のことじゃないかと思います。
    式部大輔と式部大夫とか、文脈によっては混乱するかもしれませんが、ただ、漢字で書けば一目で区別できますし、口でいう場合でも、「式部のジョウのタイフ」とか言えば済む話なので、必ず「タユウ」と言って区別しなければいけないということはないかなと思います。

  • 少輔の間違った読み方
  • さて、最後に、少輔を「しょうゆう」と読むことについてですが、これは間違った読み方です。
    ここで「間違った」と言っているのは、「言語的に根拠がない」という意味で、「実際にそういう読み方をしている人がいなかった」という意味ではありません。「しょうゆう」という間違った読み方をしている人は、昔(江戸時代あるいはそれ以前)からいましたし、江戸時代の庶民などではむしろ一般的な読み方だったといえそうです。

    なぜこのような間違った読み方がされるようになったのかというと、「たいふ」を「たゆう」と転呼するのが一般的になったのちに、「大輔」を字音で「た」+「ゆう」と読んでいるのだという間違った見解(輔の字音が「ゆう」であるという誤解)が出てきて、そこから類推して、「少輔」は「しょう」+「ゆう」で「しょうゆう」なんだろうと考えられるようになったからだと思います。

    ところで、東京都公文書館のHPに「披露口」という文書の解説がのってて面白かったんですが、これは江戸時代に大名が将軍に拝謁する際にどうやって将軍に御披露(名前を読み上げること)するかを書いたアンチョコです。こんな感じ。
    一 御暇之節者、誰人ニ而も下司不申候、苗字名斗。
    一 参勤其外御礼之面々者、苗字名下司ともニ申候。
    一 節句ニ罷出候御礼衆披露苗字名下司ともニ申し候。

    書き下し。
    一 お暇の節は、誰人にても下司申さず候、苗字・名ばかり。
    一 参勤そのほか御礼の面々は、苗字・名・下司ともに申し候。
    一 節句に罷り出で候お礼の衆の披露、苗字・名・下司ともに申し候。

    苗字は普通に苗字のことですが、ここで「名」と言っているのは諱のことではなく、例えば山城守だったら「山城」という部分です。面白いですねw武家官位の場合、正確には「官職」ではなく「名乗り」ですから、名前扱いなんですね。
    で、「下司」というのが、山城守だったら「守」の部分のことだそうです。

    つまり、斎藤山城守という名乗りだとすると、将軍にお暇を申し上げるときは「苗字」と「名」だけの披露なので、「斎藤山城(さいとうやましろ)~」とだけ読み上げられ、参勤其の外の御礼の場合や、節句に出る御礼衆の場合には、「苗字」「名」「下司」ともに披露なので、「斎藤山城守(さいとうやましろのかみ)~」と読み上げられることになっていたということのようです。(「センゴク」式に諱を付けたりはしなかったようです。)

    で、個々の名と下司の披露の仕方の注意も書かれているのですが、それによると、
    大輔の読み方は「たゆう」、少輔の読み方は「しょう(せふ・せう)」とされています。(「中務」が名、「たゆう」や「しょう」が下司になりますね。)
    つまり、江戸時代になると、少なくとも武家の間では、「大輔」は「たゆう」と読むのが正式だと考えられていたようです。

    ところで、「少輔」は「しょう(せう)」と読むとした後で、「なぜショウユウ(セウイフ)とは読まないのか」という注意書きがわざわざ書いてありました。ということは、「ショウユウ」という読み方自体は、当時一般に流布していたということなんだろうと思います。

    右之通、惣而「セウ」与斗り申之、「セウユウ」与ハ不申候、尤、大輔ハ「タユウ」与申候趣、先格留類ニ記シ有之候所より何故ニ「セウ」ト斗り唱候哉与段々取調候処、一体少輔ハ「セフフ」ニ而「フ」ノヲンハ中ニこもる故ニ「セフ」ト唱候、已ニ京師ニ而は少輔(セフ)ト唱候、大輔(タイフ)ヲ通俗「イ」ヲ「フ」ニ加ヱ大輔(タイフ)ト云、其ノ大輔ニ習而少輔(セフイフ)ト申来候間、為念右之趣此処ニ記置候事。

    ざっくり訳します。

    右のように、全体に少輔は「しょう(せう)」と読んで、「しょうゆう(せうゆう)」とは読まないのだけれど、「大輔」の場合は「たゆう」と読むということが先格留類に書いてあるのに、なぜ少輔の場合は「しょう」とだけ読むのだろうかということについて、だんだんと調べたところ、そもそも少輔は、「しょうふ(セフフ)」と読むものであって、「ふ」の音が連続して中にこもってしまうから「しょう(セフ)」と読むのであるということが分かった。現に京では「しょう(セフ)」と読んでいる。
    大輔を読む際、通俗では「イ」を「フ」の前に付け加えて、「タイフ」と読むことがある。その読み方にならって、少輔を読む際にも、「フ」の前に「イ」を付け加えて、「セウイフ(しょーゆー)」と読むようになったのだ。ということを、念のためここに書いておく。

    おもしろいですね。少輔を「しょう」と読むことの説明はいいと思いますが、どうして「しょうゆう」という間違った読みが出てくるのかについての説明が、わたしとは正反対になっています。
    少輔がもともと「しょうふ(せふふ)」だったというなら、大輔はもともと「たいふ」だったと言わなければなりません。しかしながらこの記事では、大輔を「タイフ」と読むのは通俗だと言っていて、さらに、「フ」の前に「イ」を添えて「タイフ」と読んでいるとか、かなり珍妙な説をとなえています。
    大は「タ」と読むこともありますが、「タイ・ダイ」と読む方が普通でしょう。大将軍はもともと「タイショーグン」で、別に将軍の前に「イ」を添えて読んでいるわけではないでしょうw

    それはともかく、このような珍説を唱える以上は、これを書いた人は、「タユウ」を「タ」+「ユウ」という字音読みとして意識しているんじゃないでしょうか。(大を「タ」と読むのが正しいと思っている。)だとするとやっぱり、「しょうゆう」という読みは、「しょう」+「ゆう」から出ていると考えた方が妥当だと思うのですがどうでしょう。

    それはともかく、大輔をタユウと読み、少輔をショウと読むというのは、ともに転呼したバージョンで読んでいるので、タイフ&ショーの組み合わせよりも整合性があるともいえます。

短く書くといって、結局長くなってしまいました。
前回、つづきますと言った話は、次回に書こうと思います。

それではまた。

1 Comment on 前回の補足 大輔と大夫と少輔の読み方

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