kumaこの絵は、「月の中のくまぶし」という絵です。

今日はこの絵の由来を書きます。

先週、思うところがあって、図書館で金田一先生の「ユーカラの研究―アイヌ叙事詩 (1931年) (東洋文庫論叢〈第14〉)」を借りてきました。(←それにしても、べらぼうな値段がついてるぶしね。) もともと、「ユーカラ―アイヌ叙事詩 (岩波文庫)」と「アイヌ神謡集 (岩波文庫)」はうちにあったのですが、それを読んでてちょっとわからないことがあったので借りてきたわけです。

アイヌのユーカラに、サンタトリパイナという歌があって、これは月中の人の元を物語る歌です。よくわからないのですが、どうやら月の中にいるのがうさぎではなくて人だとされていたみたいです。

ユーカラというのは、神さまとか英雄とかが一人称で語っている歌です。神さまが語るのをカムイ・ユーカラ、英雄が語るのをアイヌ・ユーカラといいます。

そもそも、アイヌというのは人間という意味で、種族というか部族というか民族というか、要するに今ふつうに使うアイヌというカテゴリーとは違って、本来的には人間はみんなアイヌです。アイヌじゃないのは、だいたいカムイです。ほかにどんなカテゴリーがあるかはよくわかりません。もちろんくまはカムイです。

Yukarというのは、真似るという意味です。金田一先生によると、「過去の実歴を、口の上に、言葉の上に、そのとほり真似る即ち複現する」ということで、「祖先の英雄が、戦場から帰つた後の爐ばたで、皆へ聞かせに、言語の上に、もいちど、それを再現する戦物語が即ちyukarである。それを自分達が後々まで云ひつぎ語り継いで行くのも、所詮はyukarな所以である」。

要するに、ユーカラというのは、直接神さまとか先祖の英雄から話を聞いた人が、その神さまとか先祖とかの語り口をそのままに、真似して語り継いできたものだということです。

さて、以上は前置きです。本題はサンタトリパイナの話です。サンタトリパイナという言葉は、意味はわからないそうですが、一句ごとにリフレインで入ってます。

このユーカラは、童子を育てていた女のひとが歌っている形になっています。金田一先生の訳の引用です。

サンタトリパイナ
童子に水汲ませんとて わが云ひつけたりけり。
然るに (彼は)爐ぶち神を 叩き叩き かく云ひたりけり――
『羨しや (爐ぶちは)神なれば 水を汲まず』
しか云ひつつ 爐ぶち神を叩き叩き さて起ちたりしが。
戸柱の神を 叩き叩き、
『羨しや (戸柱は)神なれば 水を汲まず』と 云ひたりけり。
さて外へ出でたり。
然るに 入り来ること 余りにも遅し。
それ故に われ探しに 外へ出でしが われ川添ひに下りたり。

ようするに、小人に水汲みをいいつけたら、ぶうぶう言って爐(ろ)の縁を叩いたり、柱を叩いたりしたということです。爐のふちと柱は神さまなんですが、実をいうとアイヌにとっては、ほとんどのものが神さまです。その中でも、爐ぶちは特に重要みたいで、他の話にもよく出てきます。以下はくまぶしが簡単にまとめて書きます。

さて、女の人が、童子を探しに外に出て、川を下って行ったところ、雨鱒の群れがのぼってきたので、童子の行方を聞いてみたところ、

『われらは 童子が われらを悪口して ポツポツやいポツポツやい!
と云ひたるが 腹立たしければ 童子がゆくへ われら云ふまじ』

と言われました。しょうがないので、さらに下っていきました。

今度は、鱒の群れと会ったので、童子の行方を知らないかと聞いたら、

『童子は われらを悪口し 汚いからだ汚いからだ
と、われらを云へるが 腹立たしき故
童子の 行きたる所を われら云はじ』

と言われました。しょうがない小人です。そのあと、うぐいの群れに会って、同じように聞いたら、同じように、童子が悪口を言ったから教えないといわれました。

最後に、鮭(神魚)の群れが来ました。童子の行方を尋ねると、

『童子に われら逢ひしに 「神魚よ! 神魚よ」と われらに云ひたり。
忝ければ 一分四什をわれら聞かすべし。
水汲むことを厭ひ 爐ぶちを 打ち叩き 戸柱を 打ち叩く
その神罰に 月神より 捕へられ 月中の人になりたり』

と鮭がいいました。見上げてみると、確かに童子は月中の人になっていました。

『ここに於て さんざんに涙を われひとり落としたりけり。
ゆめゆめ 仕事を厭ふなよ、 神々を毀損するなかれ。』

これでおしまいです。

この話の解釈は、次回のおたのしみです。とにかく、くまぶしも、仕事はわりとすきじゃないので、仕事をするときは、いつもぶうぶういいながらします。あと、わりと口が悪いところもおんなじです。そういうわけで、くまぶしが月の中に入れられてしまったところを書いたのが、月の中のくまぶしの絵というわけです。

月がまんまるにならなかったのは御愛嬌です。
Apr. 20, 2008
永遠回帰のくまぶし2008目次

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