こんにちは。オリンピック見てますか。わたしはスノーボード(フリースタイル)だけ見てます。
ソチの時は、ショーン・ホワイトがおばさんみたいになってて笑ったんですが、今回はおじさんになっててびっくりしました。
ハーフパイプの決勝は、1440のコンボの完成度は平野君の方が上だったように見えましたけど、やっぱりスノボは普通の競技ではなくてスタイルが重要ですから、そういう意味ではショーンの方がカッコよかったと思います。
とはいえ、少々卑怯だなと思う点は、スノボにおけるスタイルというのは、「ショーン・ホワイトのように飛ぶこと」を理想形としながら進化してきたものであると言えなくもないわけで、だから、ショーンがいちばんスタイリッシュだったというのは同語反復にすぎないともいえます。
というのはまあ冗談ですけど、スノボにおける「スタイル」には、「自分のやり方は自分で決める」ということが是非とも含まれていなければならず、したがって必然的に、「評価される」ということに対して素直でいてはいけないと思います。その点、国母君はつっぱったところがあってよかったんですけど、平野君はちょっといい子過ぎる感じがして、その辺がなんとなくスタイリッシュじゃないように感じました。(具体的には、なんかきれいに回りすぎて技が小さくみえてしまうような印象を受けました。)

さて、今回は、特に「センゴク」とは関係ない話ですけど、前回いろいろ書いているときに思いついたことを書きます。

☆問題の所在☆

まず、「センゴク」では、「羽柴筑前守秀吉」式の表記をしていて、このような表記のしかたは、江戸時代以降、わりと普通の書き方ではあるのですが、これってなんかおかしいと思いません?
というのは、「筑前守」というのは役職であるわけで、苗字と名前の間に役職が入るのって、なんかおかしくないですか?

例えば、

課長島耕作

島耕作課長

島課長

はオッケーですけど、

島課長耕作

っておかしくないですか?という話です。

「投手」だったら、

投手桑田真澄

桑田真澄投手

桑田投手

はおかしくありませんが、

桑田投手真澄

というのは、どう考えてもおかしいでしょう。

他にも、

安倍内閣総理大臣晋三

安倍総理大臣晋三

安倍総理晋三

安倍首相晋三

とかって、なんかおかしいですよね。ま、あんまり書いてるとそのうち慣れてきそうな感じではありますけども。

初代内閣総理大臣伊藤博文は、工部卿だった時期がありますけど、それでは、

伊藤工部卿博文

だったらどうでしょうか?
卿というのは、ほとんど律令制な言葉なので、人によってはありということもあるかもしれませんが、わたしはなんとなくおかしいと感じます。とはいえ彼は、工部卿の前は大蔵少輔(民部少輔)だったわけで、

伊藤大蔵少輔博文

となると、どうもおかしいとは言えないような雰囲気になってきますね。まあ、読み癖というか、慣れなんでしょうけど。

さて、上の例でおかしいと感じるのは、苗字と名前が役職で分断されているからだと思います。
例えば、

中井戸CHABO麗市

の場合、声に出して発音すると、なんとなく桑田投手真澄的な雰囲気がないわけでもないですが、chaboというのはミドルネームのようなものですから、それによって苗字と名前が分断されたとしても、別にそこまでおかしくはありません。

マイケル・J・フォックス

みたいなものですからね。

その意味では、武士系の人の名乗りというのは、前回ちょっとふれた「苗字」「名」「下司」のように、官職名を名乗っていますが、役職というよりは単なる名乗りであるので、武家にとっての「羽柴筑前守秀吉」式の表記における「筑前守」は、役職というよりミドルネーム的なものと考えられていたようです。
つまり、

木下(苗字)藤吉郎(名1)秀吉(名2)

と同じ感覚で、

羽柴(苗字)筑前守(名1+下司)秀吉(名2=諱)

なんでしょうね。というわけで、羽柴筑前でも、羽柴筑前守でも、羽柴秀吉でも、羽柴筑前守秀吉でも、ぜんぶ苗字+名前のバリエーションに過ぎないということでしょうか。

☆武家官位以前の官職を含む表記について☆

たとえば、藤原師輔(平安中期)は「九条右大臣」と呼ばれますが、この場合の「九条」というのは苗字ではなく、師輔が住んでいた邸宅を示しています。
師輔の子供たちは、「一条摂政(伊尹)」、「堀川関白(兼通)」、「東三条大臣(兼家)」、「法住寺大臣(為光)」、「閑院大臣(公季)」であり、つまり、「九条」というのは、のちの苗字のように世襲されるものではなく、あくまで彼がどこに住んでいるのかを示しているだけの個人的な屋号のようなものです。

東三条大臣(ひがしさんじょうのおとど)というのは、東三条殿に住んでいらっしゃる大臣という意味で、だから例えば、

東三条大臣師輔公

という表記がされたとしても、「東三条殿に住んでらっしゃる大臣である師輔公」という意味であって、苗字と名前が官職によって分断されているわけではありません。(正確には、この人たちにはまだ「苗字」はないわけですけど。)

大鏡では、例えば、

小一条左大将済時卿(藤原済時)

桃園中納言保光卿(源保光)

というような表記がありますが、これらも上と同様、「小一条殿に住んでらっしゃる左近衛大将である済時卿」、「桃園第に住んでらっしゃる中納言である保光卿」という意味で、「左大将済時」とか「中納言保光」という標準的な表記がベースにあって、その「左大将」とか「中納言」という官職名が、「小一条左大将」・「桃園中納言」というように修飾されているのだと思います。後世風に苗字と名前が官職によって分断されているわけではありません。

☆官職付き個人名の正式な表記法☆

そもそも官職付きで個人名を書く際の正式なやり方は、

官職+位階+ウジ+カバネ+名(諱)

が基本的な書き方です。具体的には例えば、

兵部少輔従五位下源朝臣直

右馬頭従五位上在原朝臣業平

というように書きます。

▲ちょっと脱線してカバネの話▲

氏(うじ)というのは血族集団を示しますが、苗字ではなく「本姓(セイ)」のことです。源平藤橘その他のことですね。「渡辺」とか「佐藤」とか「鈴木」とかいうのは氏ではなく苗字です。氏はそれぞれ、源氏、藤原氏、穂積氏になります。(「本姓」というのは中国式の言い方で、「かばね」とは関係ありません。どっちも「姓」という漢字を使ってるので紛らわしいですけど。昔の人はカバネには「尸」という漢字を使っていました。シカバネのカバネですね。)

姓(尸・かばね)は、氏についている称号のようなものです。律令制以前は、いろいろな姓(尸)があったのですが、のちにほとんど「朝臣」だけになります。たまに「宿禰」のときもありますが。で、時代が下ってほぼ全員が朝臣を持つようになると、カバネとしての機能は失われて、単に貴族であることを示す称号になってしまいます。その場合、日常的に名前に朝臣を付けて呼ぶこともあったようですが、これはSirと同じような感じですかね。
朝臣は「あそみ」「あそん」もしくは「あっそん」と読み、「宿禰」は「すくね」と読みます。

個人名の正式な表記法は、氏(ウジ)+姓(カバネ)+諱の順です。(姓尸名と書くこともありますが、この場合は姓をセイと読みます。)
百人一首なんかだと、「在原業平朝臣」と書いたりする場合がありますが、これは四位の人を表すときにそのように書くこともありますが、位署(正式な文書にする署名)では使わない書き方です。たぶん、ちょっとおしゃれな書き方なんじゃないかと思います。
四位の人を「在原業平朝臣」のように「姓名朝臣(ウジ+名+カバネの順)」と書くというのは、参議を天皇の御前に召すときに、四位の参議と三位以上の参議を区別するために「姓名朝臣」「姓朝臣」と呼びわけていたことから来ているようです。(このような呼び方の区別は参議だけのことで、その他の官職ではふつうに「姓朝臣名」と呼んでいました。六位以下の人にはカバネを付けないということはあったようですが。また、参議の場合の呼び方の区別というのも、除目などの際に御前に召すときの呼び方の作法であって、普段からそのように呼び分けていたというわけでもなさそうです。)

例えば、壷井義知という人の「位署難義私考」という本には次のように書いてありました。(壺井義知「位署難義私考」PDFのp30)

於位署式者不用某朝臣、皆無高下、以姓尸某為其列次、可見令格式国史等也、所謂某朝臣姓朝臣、是可分別四位参議與三位以上参議之召名也、
(位署の式では「名+朝臣」は用いない、身分の高下に関係なく、必ず「姓+尸+名」をもってその順番とする。律令格式や六国史等を見るべし。いわゆる「名朝臣」「姓朝臣」の別は、四位の参議と三位以上の参議とを分別するための召名(めしな)である。)

参議を呼び分けていたというのは、例えば職原抄の参議のところ、

四位任之者猶称某朝臣、三位已上称姓朝臣也、

とありますが、天皇の御前に召すときに、四位の参議の場合は「藤原何某朝臣」、三位以上の参議の場合は「藤原朝臣」と申し上げることになっていたということですね。江家次第叙位篇に、

大臣召参議一人、(尋在座者可召之。其詞云、左近衛中将藤原朝臣(三位已上也、四位者名朝臣))

とあります(右の頁の左から二行目)。つまり、三位以上の参議を呼ぶ際には「左近衛中将藤原朝臣」と呼び、四位の参議を呼ぶときは「左近衛中将藤原何某朝臣」と呼ぶようにということでしょう。
カバネの話は以上。

▲位署のさまざまな書き方▲

話を元に戻して、官姓名の正式な書き方についてです。

官職+位階+ウジ+カバネ+名(諱)

というのが基本的な書き方ですが、例外的な書き方の決まりがいくつかあります。
かなりマニアックな知識になりますが、知っておいても損はないと思うので書いときましょう。

位階と官職がちょうど釣り合ってる場合(官位相当の場合)は、上記のように官職+位階の順番で書きますが、官位相当でない場合は、位階+官職という順番で書きます。
で、位階が官職より高い場合(自分の位より低いポストに就く場合)は、位階と官職の間に「行(ぎょう)」と書き、逆の場合(自分の位より高いポストに就く場合)は間に「守(しゅ)」と書きます。

例えば、

正四位下行右兵衛督源朝臣勤

の場合、右兵衛督(うひょうえのかみ)は従五位上相当なので、「正四位下」を先に書き、「行」と書いてから、「右兵衛督」と書き、最後に「源朝臣勤」と書きます。

反対に、

従五位上守刑部大輔菅野朝臣佐世

の場合、刑部大輔(ぎょうぶのたいふ)は正五位下相当なので、「従五位下」を先に書き、「守」と書いてから「刑部大輔」と書き、最後に「菅野朝臣佐世」と書きます。

また、複数の官職を兼ねる場合には、

勘解由長官兼左近衛中将従四位下守右大弁行讃岐守藤原朝臣良繩

というように書きます。四つの官職を兼ねているのでだいぶ長いですね。

この例の場合は、まず、勘解由長官(かげゆのかみ)と左近衛中将はともに従四位下相当なので、間に「兼」の字を入れて「勘解由長官左近衛中将」と書いてから「従四位下」と書きます。ここまでの組み合わせは官位相当の場合の書き方なので、「官職+兼+官職+位階」という順番になるわけです。(勘解由長官は文官なので武官の中将よりも前に書きます。)

で、彼はさらに、従四位上相当の「右大弁」と、従五位下相当の「讃岐守」も兼ねていますので、「守」と書いてから「右大弁」と書き、「行」と書いてから「讃岐守」と書き、最後に「藤原朝臣良繩」と書きます。

後半の官職二つは、「従四位下」に対して相当ではありませんので、官位不相当のルールに従って位階より後ろに書きます。で、右大弁は彼の位階よりも高い官職であるので「守」と書いてから書き、讃岐守は彼の位階よりも低い官職であるので「行」と書いてから書くわけですね。また、書く順番は、右大弁の方が官位相当が高いので先に書くことになっています。

さて、最後に、通称「捧物(ささげもの)」というんですが、「摂政」「関白」「内大臣」「別当」「参議」「征夷大将軍」「蔵人頭」「蔵人」などの官職を書く時の決まりですが、これらはとにかく一番前に書くようにします。

捧物がついた例。
捧物以外の部分が官位相当の場合。

参議大蔵卿正四位下源朝臣生

捧物以外の部分が官位相当でない場合。

参議従三位行中宮大夫伴宿禰善男

このように、参議をその他の官職とかけていても「兼」という字は書きません。

参議正三位行左衛門督兼近江守臣源朝臣融

というように、参議以外の官職を兼帯している場合は「兼」という字を書きます。(姓の前に「臣」とあるのは、上表文や奏覧に供する文に位署するときに書くものです。)

ちなみに、複数の官職を兼ねている場合は、

  1. いわゆる捧物といわれる官職を一番先に書く、
  2. 位階に相当の官職を先に書く、
  3. 官位相当が高い官職を先に書く、
  4. 文官と武官だったら文官を先に書く、
  5. 中央の官(京官)と地方の官(外官)だったら中央の官を先に書く、

という順番で書きます。官位相当のもの一つを「正官」とし、他は「兼官」とします。

というわけで、例えば、

これとか、ネタに突っ込むのも野暮な話ではありますが、官職の順番がむちゃくちゃですね。
まず、義輝卿が名乗っておられる官職は、「左近衛中将(従四位下相当)」、「参議(四位以上)」、「征夷大将軍(相当なし)」の三つですが、このうち参議と征夷大将軍は「捧物」ですから先に来ます。で、官位相当でどちらが偉いかは決められず、参議は文官で征夷大将軍は武官なので、参議が先で征夷大将軍が後になるでしょう。(もっとも江戸時代には、将軍を一番先に書くということになっていたようです。室町時代とか安土桃山時代はどうだったのかよくわかりません。おそらく特に決まりはないということで、平安時代のまま、つまり文官が先で武官が後だったんじゃないかと思います。)
で、位階が従三位ということで、従四位下相当の左近衛中将より高いので、捧物の次に位階を書き、その後「行」と書いてから左近衛中将と書くのが正しいと思います。つまり、

参議征夷大将軍従三位行左近衛中将源朝臣義輝

と書くのが正しいとわたしは思います。
もっとも、これは口に出しているセリフであるようなので、「行」は入れなくてもいいかもしれません。

なんか長くなったので続きます。

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