ちょっと本筋からはずれますが、花が19歳だったってことについて書きます。本筋からはずれるので、シリーズとは違う題にしときます。

19歳の女の子に子どもを産ませるってのは、たぶん萌えポイントなんだろうけど、わたしからするとキモチワルイポイントですね。かんべんしてよって思います。
別に、若い子が子ども生むこと自体については、ちゃんとサポートされるならですけど、ぜんぜんいいと思うんですよ。いっそ高校生だって、体制が整ってて、別の大人が責任持ってサポートする(てゆうか、むしろ別の大人が育てるぐらいの勢いでコミットしなきゃいけないでしょうが)なら、産んだっていいと思います。

そういうことじゃなくて、大人の男が、「若い娘に子どもを産ませたいな」っておもう、そういう腐った下心が、気持ち悪くってしょうがないというお話です。

仕事柄、実物の19歳の国立大の女子学生っていうのには、わりと遭遇する機会が多いんですけど、実物の19歳国立女子大生っていうのは、まったくもって、わたしがもう彼女らの親に近い年齢だってことをさっぴいて考えても、すごい子どもです。ホント、驚くほどなんにも知らないし、驚くほどなんにも出来ません(もちろん、男子学生も同じです)。一般的には、「いい大学」に入る部類の大学なのにです。

もう、なんでそんなことができないのかぜんぜんわかんないってことができなかったりして、例えば、不在通知が入ってたら、電話かけて再配達してもらわなきゃいけないんだよとか、エアコンっていうのは、コンセントを差し込まないと動かないんだよとか、そんなことを教えなきゃいけないことがあったりして、なかなかたいへんなんですが、そういう若い娘が、子供産んで育てる、そして自分も成長するっていう話がやりたかったら、やったっていいと思うんですよ。ただ、テーマとしてそういう話(若い娘が母になって成長する)がやりたいんだったら、よく指摘されているように、花ちゃんの設定はさすがになしだなって思います。(ジジババと同居で、一緒に育ててくれるとか、そういうんじゃないと無理すぎですよね。で、そうなってくるともはや、子育てだけの問題じゃなくなってきますけどね。)

親になって成長するっていうのは、細田さんがお花畑的に思ってるように、子どもができて責任感が生まれたからっていうだけじゃ無理な話で、ロールモデルが必要だし、具体的に細かく教えてもらったり、サポートされたりしなきゃ、そもそも最低限のケアだってできないし、なにより重要なのは、子育てによって成長するためには、その前にまず「一人前の大人」になってないといけないってことだと思うんですよね。

で、花ちゃんは、経験値が圧倒的に足りなすぎて、子育てよりなにより、まず自分が一人前にならなきゃいけないってレベルですよね。チュートリアルを途中で放り出して、いきなりレベル30とかのダンジョンに入っちゃったみたいな。もっとも、現実の話だとしたら、うまくサポートがあるとかそういうことだったら、まだちょっと子どもだけど、とりあえず親になってみて、「大人になる」ってのと、「親としての成長する」ってのを、一緒にやってみたっていいとおもうんですよ。でも、物語としたら、それを同時にやるというのは、テーマが分散してよくないと思うんですよね。うまくまとめられる力量があるっていうんならやってみればいいと思いますが、「おおかみこども」ではぜんぜん成功してない、てゆうか、そもそも花ちゃんは、大人としても、親としても、ほとんど成長してないから、どっちにしろテーマ的には失敗してると、わたしには思えるんですけどね。

大学1年だか2年だかで、(たぶん)今まで付き合った人も、今現在同性の友達もいなくて、親戚はいるみたいですが付き合いがなくて、親兄弟もいなくて、クリーニング屋でバイトしてたっていうだけの女の子が花ちゃんなんです。
で、おおかみおとこに孕まされて、4年くらい引きこもって、さあこれからひとりで、動き回りはじめた年子を、田舎に行って自給自足で育てよう!って、それはちょっと、いくらなんでもやばいんじゃないかっていうのが、花の子育てにリアリティがないって批判する人の感想ですが、わたしも正論だと思います。

「子育てによって成長する話」がしたいんなら、一見、「本当の大人」に見える人が、子育てを通じて成長するっていうほうが、説得力があると思います。何より花ちゃんは、子育てなんかせずとも、成長する余地がありまくりな子じゃないですか。

まずは、コミュニケーションスキルを身につけて、バイトもいいけどサークルにでも入って、友だちを作って欲しいし、男を見る目も持って欲しいし、自分(とりあえず自分ひとり)でこれがしたい!とか、これが好き!っていうような、主体性を身につけて欲しいですね。

あと、せっかく大学にいってるんだから、論文を書くなんてのもいいと思うんですよね。学問っていうのは、それなりに自分の世界を作るのには手っ取り早い方法だし、せっかく国立(私立は学生数に対して先生の数がすごい少ない)なんだから、ゼミにでも入れば、先生が対話的に教えてくれますからね。高校とかで画一的に「世界」について教わるのとは、ぜんぜん違う教え方で教えてくれます。そういうのって、やっぱ花ちゃんみたいな子には、ぜったい必要だったと思うんですよ。(本を読んだだけでわかるようになるためには、それなりのスキルがいるんだよ。ってこと。で、そういうスキルっていうのは、本を読んだだけでは身につかないものなのよ。産婆術っていうか。)

それからやっぱり、就職して自分でお給料を稼ぐっていうのも、やらないよりはやってみた方がよかったかなと思います。なんだかんだ言って、ちゃんと仕事をしたことがある人とない人とは、やっぱり、かなり違いますからね。あと、学部の学生までなら、権力的関係から比較的自由でいられるっていうか、そういうのから守られてるけど、社会に出るってことは、権力的関係の中で働かなきゃいけないってことで、やっぱり甘い考えではだめだなっていうのを、身をもって教えられると思うんですよね。(悪意があるやつがいるとかね。悪意なしに人を迫害するやつがいるとかね。多数が少数を抑圧するとかね。自分も知らずに誰かを抑圧してたんだとかね。そういうことも、社会にでないと、リアルにはわかんないんじゃないかなと思います。ま、社会に出ても、わかんない人はわかんないけどね。でも、女の人だったら、社会に出てそういうのを感じないでいくのって、ほぼ無理なんじゃないかって思う。)

花ちゃんは、そういったことを一通りやって、一人前の大人にならなきゃいけなかったんだけど、おおかみおとこは、花ちゃんに子どもを産ませ、その子どもを「秘密にしなければならない」って呪うことによって、「自分の閉じた狭い世界」に、子どもと花ちゃんとを閉じ込め、そうすることによって、上に書いたような可能性をぜんぶ、実現できたかも知れない花ちゃんの可能性をぜんぶ、根こそぎ奪ってしまったんですよ!?それで、都合のいい「ぼくのママ」っていう奴隷にしてしまったんですよ?(花ちゃんが産むことについて主体的に決断したとは思えません。)
いくらフィクションだからって、そんな非道が許せますか?ねえ!?許せる?
わたしはもう、泣きそうになっちゃいます。

ふう。また興奮してしまった。

話を戻して、花ちゃんが一人前の大人になったとして、自分の世界っていうのが、それなりにできたとします。で、そうなってから子どもを育てるとどうなるかというと、そういう大人の視点から、子どものリアリティを解釈してあげることができるようになるんですね。これは、親からしたら、「子どもを理解する」ってことなんですが、子どもからしたら、「親から世界について教わる」ってことになるんだと思います。ポジティブフィードバックですね。親は、子どものリアリティを「自分の世界」に取り込んでいくことで変わっていく(世界が広くなっていく)し、子どももまた、そうやって成長していく親から、リアルタイムに世界を解釈する枠組みを教えてもらうことで、「自分の世界」を作っていくわけですから。親と子が、コミュニケーションすることで、お互いに成長しあっていくというわけです。

と、わたしなんかだと思うわけですが、実際のところ、19歳の女の子に子どもを産ませようとする背後には、「母になって成長する姿を描きたい」というタテマエ以上の、すごいキモチワルイ下心があるように思われてなりません。

これはやっぱり、子育て云々より先に、おおかみおとこと花ちゃんの関係で考えるべきものだと思うんですよね。つまり、おおかみおとこは、自分と同じくらいの年の、ちゃんと大人になった女性に子供を生ませるより、19歳のまだ未熟な女子学生に子どもを生ませたかったんだろうなってことです。これはまあ、わかる話で、ちゃんと自分の世界を持ってる自立した女の人は、おおかみおとこなんか相手にするわけがねーよって話なんですが、おおかみおとこのほうからすると、対等な相手としての成熟した女性が怖いから、やさしくしてくれるママを探してるわけで、その意味で世間知らずなメンクイ女学生というのは、こましやすく甘えやすそうな相手だったってことじゃないでしょうか。

というわけで、あたりまえのことですが、マザコンとロリコンは表裏一体です。
だから、おおかみおとこが、25歳のOLか、19歳の女子学生か、どっちを選ぶ?ってことになったら、もう間違いなく花ちゃんを選ぶのは目に見えてますが、そもそも彼は、「選んでないもん、向こうが勝手に好きになってきたんだもん」といって、自分は悪くないといいはるつもりなんでしょうね。この外道が。

そう考えると、彼がなんで大学の教養課程の授業にもぐりこんでたかも、わかってきちゃうわけですが、やっぱりそうなると、おおかみおとこだけの目論見というよりは、もお、作者の邪悪な意図が働いてたんだと思わざるをえないですね。

ちなみに、日本も基本的にそうでしたけど、インドとか中国とか、伝統的な考えでは、嫁は若くなくちゃダメってことになってます。こうした考えは、上記のようなマザコン的ロリコンとはちょっと違ってて、まあ本質的にロリコンだから、ロリコンはロリコンで、インドの例とか見ると、生理的な嫌悪感を覚えることはままあるわけなんですが、そういう個人的な感想を抜きにしてみれば、幼いうちから養育して、本当の家族の一員にするって側面が強いシステムであるような気がします。

嫁になると、婚家でその後一生過ごすわけですが、この場合の家というのは、共同体です。夫婦だけの関係ではなく、大家族なんですね。で、そういうコミュニティでの「世界観」というのは、個人的なものというよりは共同体的なものです。具体的には「家ごとのやり方」ですね。

だから、実家で大人になるまで成長してしまうと、実家の世界観を持ってしまうことになるんですね。で、そっから婚家に嫁ぐと、実家との違いでいちいち摩擦が生じるわけです。これがたぶんすごいストレスになるんですね。で、あの嫁は結局よそ者だといって、婚家になじめなくなっちゃうわけですよ。

そういうのを未然に防ぐため、女の子は12とかそれくらいで嫁に出しちゃうっていう場合があります。こういうのは、まあロリコンはロリコンで、夫と妻の間にすごい年齢差を作って、もうどう考えても対等な関係とかにはなりようがないわけで、対等にしようとか、最初からそういう近代的考えは持ってないシステムなので、文句を言ってもしょうがないですね。

で、そういう前近代的ロリコンだと、夫は妻に対して圧倒的力を持ってますから、さすがに「僕を愛して」みたいな軟弱なことは言わないということになってます。実際はどうだか知りませんが、理想的には、夫は妻を庇護し、導いていく(教育的配慮をする)責任があるというわけですね。ま、たしかに、うちのじいちゃんばあちゃんの関係とかはそうでしたね。というわけで、マッチョなロリコンというのは、タテマエとしては、マザコン=ロリコンとは正反対なんだと思います。

4 Comments on 花はまだ19だから

    • んじゃ、そのうち読んでみるわ♪

      そういえば、昔、後輩の夫婦に、京極堂みたいですねっていわれたことあるわ。

      たぶん、すぐ魔物の話とかしてたからだと思うけど。

    • そりゃすごい。裁判所のやつかな。
      競売はでも、落とせたとしてもそれからが大変なことがあるから、まあ、落とせなくてよかったかなww

      てか、花もそれくらいできる子だったらよかったんだけどね~。
      でも、そういう子はおおかみおとこの好みではないと思いますが。

      そういえば、薬屋の主役ってマオマオのこと?
      17っていってますけど。
      おもしろい話なのかね?

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